刺された箇所は胸の中央付近。
溢れる血は止まる気配は無く、共に意識も遠のいて行く。
明らかな、致命傷だった。
血が滴る剣は重力に従って床を削り、赤い線を引いた。
エルシアに向き直ったものの、わななく腕は剣を落とし、細い身体はよろめいた。
たった一度。
たった一撃で………こんな………こんな…………。
エルシアの華奢な手が、再び剣を構えた。
「―――…っ………おのれ……っ」
耐えられない様な屈辱を味わい、この目の前の存在を消し去りたいものだったが。
………身体は意志に反し、機敏に動いてはくれない。
―――退くしかない。
辛うじで残っている意識を振り絞り、ベルトークはエルシアの前から飛び下がった。
眼前に振り下ろされたエルシアの素早い剣が、髪を掠めた。
大きく後ろに退いたベルトークの身体は、“闇溶け”の真っ黒な闇を纏ったまま、薄暗がりに消え失せた。
この城内は、“闇溶け”でも壁を擦り抜けることは出来ない。
…ただ、風の流れに身を任せるしかなかった。
曇り硝子を透かして見た様な、赤みを帯びた蝋燭の薄明かり。
視界に映るのは光だけで、蝋燭自体はもうはっきりと見えない。
喉を貫く鈍い痛みと共に、この光も見えなくなるのだろうな…と、うっすらとした意識の中で考えていたが………一向に明かりは消えない。
もしや、もう自分は死んでいるのではないか………。
天国と地獄……。
これまでの人生で、それなりに良い事をしてきたとは思うが………この戦争で、散々人殺しをしてきたのだ。
……行くなら地獄だろう。

