亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~


刺された箇所は胸の中央付近。


溢れる血は止まる気配は無く、共に意識も遠のいて行く。

明らかな、致命傷だった。




血が滴る剣は重力に従って床を削り、赤い線を引いた。

エルシアに向き直ったものの、わななく腕は剣を落とし、細い身体はよろめいた。



たった一度。

たった一撃で………こんな………こんな…………。







エルシアの華奢な手が、再び剣を構えた。









「―――…っ………おのれ……っ」










耐えられない様な屈辱を味わい、この目の前の存在を消し去りたいものだったが。

………身体は意志に反し、機敏に動いてはくれない。



―――退くしかない。

辛うじで残っている意識を振り絞り、ベルトークはエルシアの前から飛び下がった。

眼前に振り下ろされたエルシアの素早い剣が、髪を掠めた。


大きく後ろに退いたベルトークの身体は、“闇溶け”の真っ黒な闇を纏ったまま、薄暗がりに消え失せた。



この城内は、“闇溶け”でも壁を擦り抜けることは出来ない。
…ただ、風の流れに身を任せるしかなかった。

















曇り硝子を透かして見た様な、赤みを帯びた蝋燭の薄明かり。

視界に映るのは光だけで、蝋燭自体はもうはっきりと見えない。


喉を貫く鈍い痛みと共に、この光も見えなくなるのだろうな…と、うっすらとした意識の中で考えていたが………一向に明かりは消えない。


もしや、もう自分は死んでいるのではないか………。



天国と地獄……。

これまでの人生で、それなりに良い事をしてきたとは思うが………この戦争で、散々人殺しをしてきたのだ。

……行くなら地獄だろう。