そこにいるのは、そこにはいない筈の……いてはいけない者。
虚ろな目を添えた人形の様な無表情を向け、固く結ばれた小さな赤い唇は開かれること無く、沈黙を守っていた。
「………………ん…な………!…………………………こん…な事………………」
あっては、ならない。
これも、因果だろうか。
オーウェン=ヴァン二と同じ…………因果だろうか。
だとすれば………滑稽だ。
滑稽な、運命だ。
「………貴様は………………………一体何処まで………勇ましい人間…なのだ…………………」
その名を本人に向かって呼ぶことが……また、あろうとは。
噛み締めた唇から、苦い血の味がした。
「―――…………………………………エルシア……姫………」
『―――』
……無表情のエルシアは、背後から長い剣でベルトークを貫いたまま、ぼんやりと首を傾げた。
彼女の下半身はドロドロの黒い液体が波打っている。
「…………………影………か……………………………醜い姿に……なってしてもまだ………貴様は………!」
エルシアの剣を掴む両腕に、力が込められた。
―――瞬間。
ベルトークの胸部から、長く重い剣が生々しい音を立てて………引き抜かれた。
「………………っぐあ………っ!!……」
容赦無く斜めに引き抜かれ、傷口は広がり、大量の血が吹き出した。

