亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~




そこにいるのは、そこにはいない筈の……いてはいけない者。



虚ろな目を添えた人形の様な無表情を向け、固く結ばれた小さな赤い唇は開かれること無く、沈黙を守っていた。

















「………………ん…な………!…………………………こん…な事………………」










あっては、ならない。


これも、因果だろうか。


オーウェン=ヴァン二と同じ…………因果だろうか。








だとすれば………滑稽だ。










滑稽な、運命だ。























「………貴様は………………………一体何処まで………勇ましい人間…なのだ…………………」





その名を本人に向かって呼ぶことが……また、あろうとは。


噛み締めた唇から、苦い血の味がした。































「―――…………………………………エルシア……姫………」













『―――』





……無表情のエルシアは、背後から長い剣でベルトークを貫いたまま、ぼんやりと首を傾げた。

彼女の下半身はドロドロの黒い液体が波打っている。


「…………………影………か……………………………醜い姿に……なってしてもまだ………貴様は………!」







エルシアの剣を掴む両腕に、力が込められた。















―――瞬間。






ベルトークの胸部から、長く重い剣が生々しい音を立てて………引き抜かれた。





「………………っぐあ………っ!!……」



容赦無く斜めに引き抜かれ、傷口は広がり、大量の血が吹き出した。