亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~

足元に、天井に、柱に………。

絶えず、白い背景にいくつもの深い傷と亀裂が走り、細かい破片と埃が舞い散る。


カーブを描きながら乱舞する刃が、容赦無くオーウェンを襲う。

避けようとするが、息が上がった身体はその速さに追いつけないでいた。

流血する傷口や脇腹に、新たな傷が重なる。



「………っ…!……………このっ……!」


思い切って斬撃の嵐に向かって走った。風の端が右目の瞼を掠めた。

ベルトークは腰から短剣を抜き取り、向かって来るオーウェンに向かって投げ付けた。

クルクルと回転する短剣の刃先は、真っ黒な闇を纏っていた。

………それが、足を掠った。


ちょっと掠っただけなのに………その片足だけが突然動かなくなり、ガクンと身体が前に傾いた。


床に両手を突き、動かない足を見やると………足首から、おびただしい量の血が流れていた。傷は斬られたと言うよりまるで抉られた様に、そこにあった一部の皮膚や肉が欠落している。



………足首の後ろ側………アキレス腱が抉られている。




………“闇入り”で消されてしまったのだろう。

足は全く………ピクリとも動かない。







「………………救うだと……?…お前が動くことで…………誰かが救える?…………」


ベルトークの声が頭上から聞こえた。
顔を上げた瞬間、横っ面を蹴られた。


「………っ……!」

両手を張って俯せの体勢から起き上がろうとすると、今度は脇腹を思い切り蹴られた。



「…………救えなどしない…………!………貴様の………思い上がりに過ぎない………!……………少なくとも………私には………」














私には、出来ない。