亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~

ベルトークが小さく息を吐いた途端、彼の姿が視界から消えた。



肩を負傷しても、その神速は変わらない。


瞬時に空気の流れを読み、見えない太刀筋に向かって槍を構えた。
一秒も無い僅かな間を置いて、ぶつかりあう鈍い音が響いた。

ふらつく身体に鞭を打ち、なんとかベルトークの攻撃を受け止めたオーウェン。
ベルトークは間を置かずに切り込んできた。

あらゆる角度から刃が伸びてくる。

それら一つ一つは目で追えない程素早く、確実に急所を突いてくるものだったが……。

………気のせいだろうか。…………この男にしては…荒々しい。…………槍に伝わって来るのはどれも重い衝撃で……………力み過ぎている…。


(………なんだ…………?…………この……殺気は……)




ヒシヒシと感じるのは、いつもの冷やかな、刺す様な視線ではなく…………怒りを感じる。


……………本人は気付いていないかもしれないが………この男……明らかに……………動揺している。
………表情にこそ現れていないが……。




少しずつ後退しながら突きの嵐を全て受け止め、オーウェンは下から上に向かって斜めに槍を振った。


瞬間、なんとベルトークは片手から両手に剣を持ち替え、避けるどころか、向かって来た槍を薙払った。



……力任せな攻撃。


…………やはり、何か違う。





弾き返されたが、咄嗟に後退し、空いた胴体を狙っていたベルトークの刃を避けた。