亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~



震える手を足元に伸ばし、床に落ちている刃こぼれの激しい剣を掴んだ。



………親指が折れているのか、酷く握り辛い。

ダラリと前に垂れた後ろ髪を肩で壁に押し付け、切れ味の悪い剣で切った。


ハニーブラウンの長い髪が、血溜まりの上に落ちた。

………随分と、頭が軽くなった気がする。


一気に短くなった髪を、血塗れの手で後ろに掻き分け、壁に寄り掛かったまま苦しそうに呼吸を繰り返す。






「……………はぁ…………はぁ―…………………………はぁ…。………………………ハハハッ……」

顔を上げ、オーウェンは笑みを浮かべた。



向かいに立つ男は、ただ黙ってじっとオーウェンを凝視している。

………ベルトークは刺された左腕を押さえ、視線をオーウェンの足元に移した。



………激しい乱戦で、不覚にも刺されてしまった。

幸い利き手の方ではないし、片手のみで剣を扱うため、支障はさほど無い。


………何ヶ所……自分はこの男を斬った?


………床に流れ出た奴の血の量は半端ではない。

気絶しても……いや、死んでいても不思議ではないのに。





………見るからに弱っている。
呼吸も荒いし、指先が痙攣している。

…………この男は、もう……死ぬ。




死相が見えている。




しかし………この男。
















(…………何故………笑ってなどいられるのだ……?)







オーウェンは、笑っている。


こちらを睨む訳でも無く、ただ……笑っている。










「…………どうしたよ…ベルトーク……。……………………同情でも……してくれるのかい?…………有り得ねぇか………ハハッ……」