上手く力が入らない足を動かし、足元の花の群れを過ぎ行き、少しずつ、少しずつ…。
………何度も瞬きをして、薄暗い空間に目を凝らした。
溶けた蝋燭。
銀食器の破片。
砕けた壁の一部。
飛び散った硝子。
古いアンティーク。
破れたレース。
本の少し、廊下に足を踏み出すと、そこから先は瓦礫の山だった。
突風の通り道だったのか。
何処にあった物なのか。城内には有り得ないものもこの通路に吹き飛ばされている。
散乱した硝子と落ち葉を靴底で潰し、肩で息をしながら、ローアンは懸命に探した。
唇を噛み締めて、目元を袖で拭い、泣きたい衝動に駆られる自分を押さえた。
「―――…はぁ…はぁ…はぁ……。…………………あ……」
瓦礫を掻き分けた奥に……。
…………懐かしい、鮮明な赤が………目に入った。
急いで引っ張りだし、被った埃を払い除けた。
………両手で持って、少し皺の寄った真っ赤なそれを、目の前で広げた。
赤。
綺麗な、綺麗な、赤。
あの夜に見た、赤。
………伝統として受け継がれてきた、真っ赤な花嫁衣装。
私は、これを着た姉の姿を見る筈だった。
幸せな姉を、見る筈だった。
でももう、それは叶わない。叶わない夢。
「――………う………あ……あああ………あああああ………」
ローアンはドレスを両手でひしと抱き締めたまま、その場で崩れる様に膝を突いた。
我慢していた涙が、止めどなく。

