一歩、エルシアに歩み寄った途端、エルシアの身体は足下から黒い液体へと戻り始めた。
下半身から徐々に黒く変貌していく。
………嫌だ。………まだこうしていたいのに。消えないで………。
エルシアの死に目に会えなかったローアン。
彼女の胸には、剣による一つの刺し傷があった。
「………お姉様……!」
『―――…もう、歳は変わらないでしょう?…私と同じ16歳じゃない。……………ごめんなさいね、ローアン。………リネットの事……あの子を許してあげて…………仕方無いの。………だって私もあの子も、今は影。本当は死んでいるんだもの』
………自らを、死んでいる、と断言するエルシア。
おっとりとした話し方で、彼女は降り懸かった運命を冷静に見定めている様だった。
『………ローアン。………謁見の間の碑石を…………壊してちょうだい……』
「――!?」
あの赤い碑石を…?
ではやはり………影はあの碑石が原因だったのか。
……エルシアの身体は真っ黒に染まっていく。
『………一人……殿方が謁見の間へ近付いているけれど………あの碑石は、貴女が壊さなければ駄目よ。……元凶である王族がしなければ……意味が無いの。………壊して…全部終わらせて……』
「………でも……壊したら…………お姉様達は……」
―――消える。
エルシアは微笑を浮かべた。
『―――……早く死にたいの。ちゃんと………。………死んでいるのに死んでないみたい。………ずっとこのままは………地獄だわ…………………………今はまだ大丈夫だけど………私も………………狂ってしまいそう………………そうなる前に…』

