いつの間にかリネットの背後にいるその影は、見る見る内に黒いドロドロの塊から形状を変えていく。
………リネットの剣を掴む影の触手の様な部分が…………華奢な、白い腕に変わった。
リネットの時と同様、影はだんだんと細く、人の形へと変貌していく。
リネットの後ろには…………………………………綺麗な女性が立っていた。
見詰めるローアンの瞳を、熱い涙が………潤した。
………驚きの余り、上手く開かない口。
ローアンがその女性の名を呼ぶ前に…………その人は、優しく微笑んだ。
『…………駄目じゃないリネット。…………よーく見て。……………私達の可愛い妹じゃない……………』
クスクスと笑う綺麗な顔。
剣を落とし、ぼんやりと佇むリネットを、その人は後ろから優しく抱き締めた。
………ズルリ…と、リネットの身体は黒い液体へと変わっていき、抱き締める女性の身体に同化していく。
『………ほらねぇ…リネット………………可愛いローアンよ。………………妹に剣なんか向けちゃ、駄目よ………』
リネットの姿は完全に目の前から消え失せた。
代わりに、暖かな笑みだけが、残った。
ローアンは短剣を離した。
足元に広がる花の中に、音も無く剣は落ちた。
………涙が、頬を伝った。
「――………エルシア……お…姉…………様」
エルシアだ。
優しいエルシアが、ここにいる。
優しい笑顔で、ここにいる。

