亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~



いつの間にかリネットの背後にいるその影は、見る見る内に黒いドロドロの塊から形状を変えていく。






………リネットの剣を掴む影の触手の様な部分が…………華奢な、白い腕に変わった。


リネットの時と同様、影はだんだんと細く、人の形へと変貌していく。













リネットの後ろには…………………………………綺麗な女性が立っていた。











見詰めるローアンの瞳を、熱い涙が………潤した。




………驚きの余り、上手く開かない口。

ローアンがその女性の名を呼ぶ前に…………その人は、優しく微笑んだ。







『…………駄目じゃないリネット。…………よーく見て。……………私達の可愛い妹じゃない……………』









クスクスと笑う綺麗な顔。

剣を落とし、ぼんやりと佇むリネットを、その人は後ろから優しく抱き締めた。



………ズルリ…と、リネットの身体は黒い液体へと変わっていき、抱き締める女性の身体に同化していく。






『………ほらねぇ…リネット………………可愛いローアンよ。………………妹に剣なんか向けちゃ、駄目よ………』










リネットの姿は完全に目の前から消え失せた。


代わりに、暖かな笑みだけが、残った。




ローアンは短剣を離した。




足元に広がる花の中に、音も無く剣は落ちた。




………涙が、頬を伝った。


















「――………エルシア……お…姉…………様」














エルシアだ。

優しいエルシアが、ここにいる。






優しい笑顔で、ここにいる。