Lost in memory ~失われた記憶~

「腹は減ってないか?うちの家でスープでも飲んでいけ」
「…」
「寒くないか?寒そうな格好をしおって…。これを着ろ」
おじいさんは僕に自分が着ていたコートを着せてくれた。
すると、僕の体と共に心まで温まっていくような感覚を覚えた。


人間って自分勝手な生き物じゃなかったのか?
どうしてこんなに暖かい気持ちになるんだろう…
それがどうしても気になって、勇気を振り絞っておじいさんに尋ねた。

「他人の僕に…何でここまでしてくれるんですか?放っておいたら良いじゃないですか。
僕なんて…」
すると、おじいさんはこう答えた。
「困っている人は目にとまったら助ける。また、苦しんでる人がいたらその人の心の支えになる。それがワシの心得じゃからな」
おじいさんの笑顔に、僕は何も言い返せなくなった。

この人は違う。この人はあんな身勝手な人間じゃない。
この人は…自分のことより他人を優先する、優しい心の持ち主だ。
そう思った。

「付いてきてくれ」
「…はい」
気がつくと、反射的に笑顔で答えていた。

いつの間にか、雪が降り止み、黄金の月が空に輝いていた。

このおじいさんとの出会いが
僕の生き方を大きく変えていくことを
このときの僕は知らなかった。