差し出された手を、躊躇いがちに握る。
よろしくの握手。
緊張で手汗が気になったけど、彼は別段何も言わなかった。
「それじゃ、行こっか」
貸してと言われキャリーバッグを手渡すと、それを引きながら歩き出す。
「重いなぁこれ、なに入ってんの?」
尋ねられても、なんだか恥ずかしくて無言のまま後を追った。
今年の夏は猛暑だ。
テレビでもやたら、異常気象だと騒いでいた。
日焼け止めを塗れば良かったと後悔したけど、きっとこれじゃ汗で落ちちゃう。
帽子か日傘か、持ってくるのが正解だったかな。
太陽の日差しに負けそうになりながら、汗を拭ってひたすら前だけを見た。
引っ張っているキャリーバッグのガラガラという音。
家を出て歩いた夜道では、うるさいくらいだったのに。
人ばかりのこの道では、そこまで騒音には聞こえない。
夜道を歩いていた時、補導されなくて良かったと今更ながらに感じた。
「どうやって、ここまで来たん?」


