もう、戻れない。
あたしは、現実から逃げ出した家出少女。
ほら、早くあたしを見つけて。
あたしの、新しい家をちょうだい。
「めーえーちゃん」
背後から声がして、立ち止まってから振り返る。
無表情のまま顔を見つめるあたしに、相手は笑顔でこう告げた。
「お迎えに参りました、お姫様」
どこの出身だったか、初めて電話した時に聞いたのに。
もう忘れてる。
「あっれ、めぇちゃんだよね?」
少しだけ、アクセントに訛りがある喋り方。
そんなこと言ったら、きっと田舎育ちのあたしも綺麗な標準語ではないと思うけど。
「………うん」
小さく頷いて、小さく笑う。
電話だと顔が見えないから平気だけど、実際に会って話すとなると警戒心が消せなくて。
元々、あたしは年上の人と話すのが得意じゃない。
幼い頃からそうだ。
お姉ちゃんの友達とすら、なかなか打ち解けられずにいた。
「えっと……まぁ、よろしくな」


