「めるちゃんは、引っ越してきたばかりなの?」
グラスの中のオレンジジュースをストローで混ぜていたら、夏希さんが唐突に訊いてきた。
あたしは途端に動作を止め、テーブルの一点を見つめる。
本当のことを話すか、迷ってしまう。
いや、そんなに気にすることはないのかもしれない。
夏希さんとまた会うとは限らないんだし。
「実はあたし、家出してきたの」
正直に言うと、彼女は目をパチパチしてから突然笑い出す。
わけがわからなくて戸惑っていると、今度は優しい笑みに変わった。
隣に座っていたカップルが、こちらを怪訝そうに見てくる。
「そっかそっか。
ようこそ東京へ」
両手を広げて歓迎の言葉を述べて、グラスに入っているメロンソーダをひと口。
「めるちゃん、私でよければ力貸すよ。
困ったら何でも相談しなさい」
自信満々に宣言されて、逆に困惑してしまう。
そんなのお構いなしに、彼女はメモ帳を取り出すと何かを書き始めた。


