「ありがとうございます。
助けてくれて」
今度はちゃんと聞こえたみたい。
パァッと明るい笑顔になると、両手をガシッと掴まれた。
「私、市川夏希(イチカワ ナツキ)」
「へ?」
「あんた名前は?」
あんまり元気いっぱいに話されて、どぎまぎしてしまう。
市川夏希、それが彼女の名前らしい。
「……める」
小さく名前を告げると、え?と眉間にシワを寄せられる。
きっと、珍しい名前だから聞き取れなかったのだろう。
少し迷ってから、躊躇いがちにもう一度名前を告げた。
「める……?
変わった名前だね」
慣れたやり取りを交わし、あたしはそろそろ歩を進めようとした。
だが、そこでようやく気付いた。
あれ?
ここどこ?
えっと…目印は…。
先程まで覚えてきた道のりを、今の出来事で全て忘れてしまった。
あたし、もしかして迷子!?
どうしようかと困っていると、夏希さんは何か企むように笑みを浮かべて。
「ははーん、あんた迷子か」
「えっ!?」
正解を言われて驚いた。


