せっかくだから、調べてその花の絵を描いてあげたい。
なんで好きなのかと尋ねると、響はただ笑った。
それから、こう続けた。
「花言葉は、愛敬、偽りの魅力、変装、愛嬌。
まるで俺みたいじゃん」
「ふーん」
間を置いてから、打った相槌。
後ろ手をつきながら、天井を仰ぐ。
クーラーの冷気と争うように、カーテンの開いた窓から眩しい日差し。
一度前屈みになってから少し後退して、ベッドに寄りかかるように座り直した。
「ふっ、なに」
お互いの視線が交差して、思わず笑ってしまう。
響は無言のまま薄ら笑いを浮かべて、窓のほうに視線を投げる。
欠伸をする目の前の青年は、あたしとは遠い別世界の人に見えた。
それは、出会った瞬間から感じていたけれど。
「そういえば、響はどうして上京したの」
目尻の涙を拭って、彼がこちらを向く。
「早く自立したかったから、かな」
外と大きく異なる部屋の温度に、体が徐々に慣れてくる。
このままこの部屋に閉じこもっていたら、広い世界の温度の変化に取り残されてしまいそうだ。
「ねぇ響、これからよろしくね」
ただなんとなく、それでも今は響と2人きりの閉鎖された空間が落ち着きをくれるような…そんな気がした。


