見られたらまずいとかじゃなくて、単純に恥ずかしいから。
自分の絵を誰かに見せるのには、多少抵抗があった。
ぎゅっとスケッチブックを抱きしめるあたしを、彼は微かに口元を綻ばせて見つめる。
視線を外してくれないから、どこを見ればいいか困って目を伏せた。
「…花の絵、描くのが好きなの」
そのまま、かき消されてしまいそうな声で告げる。
それでもやっぱり、スケッチブックを開く気にはなれないのだけど。
「響、好きな花とかある?」
スケッチブックを膝の上に、筆記用具を床に置いて、また別の荷物を手にする。
キャリーバッグから取り出された私物が、床に着々と並んだ。
持ってきたのは衣類が中心だけど、歯ブラシやシャンプー、流さないトリートメントに化粧水。
その他日常的に使うものも、いくつかある。
「エンゼルトランペット」
答えに顔をあげて、一旦動作を中断してから響のほうへ向き直した。
「初めて聞いた。
どんな花?」
「妖精が持ってるトランペットみたいな花」
「なんか、すっごくメルヘンだね」
初耳の花の名を、忘れないように暗唱する。


