「お願い、夏休みの間だけでいいから」
二階の自分の部屋で、懇願中。
「もう、嫌なの、家にいたくない。
お願い助けて」
『いや……それ、家出だよね』
電話の相手は、困ったように返事をした。
電話での交渉時間は、約一時間。
電話代なんて気にしてられるか。
絶対に、家出するんだから。
16歳の、夏休みに入って数日後のことだった。
何が嫌だとか、そんなことわからなくて。
ただただ、家にいるのが窮屈に感じて。
「お姉ちゃん、あたし、家出する」
一人暮らしをしている大学1年生の姉──綺莉(キリ)にだけ知らせると、キャリーバッグを引いて家を出た。
向かう先は東京。
たかがネットの世界で知り合った、新人ホスト──響(キョウ)の自宅。
ここから、あたしの家出生活が始まったのだ。