「最初は嬉しかったよ。今までは家族って概念があんまりなかったからちょっと戸惑ったけど、お父さんもお母さんも優しかったからすぐに新しい生活にも慣れた。あの頃が一番幸せだったかな。」


ほのかはふぅっとため息をついた。


「けど、一年経った時、お母さんが病気で急に亡くなったの。お母さんが亡くなってからお父さんはおかしくなっちゃった。」


「おかしくなった?」


「うん。…暴力をふるうようになったの。」


予想はしていたことだがいざほのかの口からその事を聞くとやるせない気持ちになり真人は眉を寄せた。


「お父さんは毎日お酒を飲んで、お母さんの代わりにお前が死ねば良かったのにって言ってた。お父さんに殴られたり蹴られたりするのが怖くて、いつも押し入れのなかに閉じ籠ってた。


学校に行くのも許して貰えなかったから、登校拒否みたいな扱いになって、中学は一応、卒業証書は貰ったけど、高校は行けなかったから、毎日ビクビクしながら暮らしてた。」


「施設には言わなかったの?お父さんに暴力ふるわれてること。」


「言えないよ。先生たちはわたしが幸せに暮らしてると思ってるし、施設に来る子も多いからわたしが施設に戻ったら迷惑になると思って、言えなかった。怖かったけど、お父さんもお母さんを亡くして辛いってわかってたから、逃げられなかったの。」


そこまで言ってほのかは言葉を切った。今までも悲痛な顔で話していたのだが、もっと辛そうな顔をしている。


次の言葉を発したら真人に嫌われてしまう。その不安がほのかの口を閉ざした。