遠乗り決行の日の前の晩(ばん)、電気を消してふとんに入っても、明日の冒険のことを思うと、ぼくはなかなか眠れなかった。沖のくろしおのさざめきが、すぐ耳もとで聞こえる。 
 ぼくはふだん、台風でも来ないかぎり、部屋の雨戸は閉めず、うすいカーテン一枚を引いて寝ていた。だから、部屋の中は明かりを消しても、月や星明りでほのかに明るかった。
 目を開けて、天井を見つめていると、天狐森(てんこもり)神社の古ぼけた小屋の奥にあるという、まだ見たことのないどうくつの入り口の、ぽっかりとあいた穴が思い浮かぶ。
 あの奥には、いったい何があるのだろう?
 ぼくはふとんをぬけ出すと、窓のところまで行き、カーテンを開けてみた。
 黒ずんだ灰色(はいいろ)の海にうつる金色の帯。月の真下の水平線のあたりは、ひときわかがやいて、まるで光の木の葉をうかべたようだ。光の木の葉はくろしおの流れで、ちらちらとふるえている。
 そして黒々としたライオン岬のりんかく。その頭の部分が天狐森だ。
 ぼくは光の帯に沿(そ)うように横たわる岬のむこうに、寝そべるライオンのすがたを見ていた。