千年も昔、岬の高台に、天から降ってきた狐(きつね)がいた。狐はどうくつで修行中の行者に食べ物をとどけたり、島の子どもたちとあそんだりしたという。後になってその狐をまつってできたのが、この神社だった。
 かなり前には、神主(かんぬし)がいたらしいが、ぼくのじいさんが、ぼくくらいの年のころには、もう無人の神社になっていた。そして行者の岩屋の方は、そうとうの昔に小屋が建てられ、ほら穴はふさがれてしまった。
 今は、くもの巣(す)のはった本殿と、こわれかけた小屋だけがのこっている。
 いったい、あの小屋のむこうは?行者の岩屋は、今、どうなっているんだろうな……
 ぼくは2年生のとき、一度だけ遠足でこの岬まで来たことがある。その遠足のとき、だれかが小屋の戸を開けようとして、すぐに先生が止めに入ったことだけはおぼえている。
 遠乗りの約束をした日、ぼくがユーイチにそのことを話すと、よく焼けた顔に白い歯をのぞかせて、
「いいな、いいな。早く行きたいよ」
と言って、ピョンとはねた。
「問題は中に入ってからのことだよな」
「まっくらだろ?懐中電灯(かいちゅうでんとう)がいると思うよ」
「いや、ローソクの方がいい。ほら、いつか先生が理科の時間に言ってたよね。どうくつの中は、自然にガスなんかがふき出している場合があるから、中に酸素がちゃんとあるのかたしかめるためには、ローソクやたいまつを持って入る方がいいって。もし酸素がなかったら火が消えてしまうから、危険に気づけるって」