ユーイチは流しどうろうを波にうかべた。灰色(はいいろ)のなめらかな水の上にゆらぐローソクの火。どうくつの中の波は静かに打ちよせていて、むこうへ大きく引くことはなかった。だから、紙コップの流しどうろうは、少し進んでは何度も浜にもどされそうになった。そのたびに、行け、行くんだ、と口々にぼくらはさけんでいた。
 ついにユーイチが靴のまま浅い海に入った。そして流しどうろうを片手でつかみ、ひざまで浸(つ)かりながら、どうくつの外まで持って行く。ユーイチがザブザブと音をたてて速く歩いたので、とうろうの火は消えそうになった。ユーイチは、今度はゆっくりと歩きながら、もう一方の手でローソクの火をそっとかこむ。
 流しどうろうはユーイチに浮かべられて、少しずつ左の方へ流れだした。とうろうは、くろしおに乗ったのだ。
「行け、海のずっとむこうまで」
 ユーイチがさけぶ。流しどうろうは、そのまま東に進み、どうくつのかげにかくれてしまいそうになった。とうろうの後を追うように、浜にいたぼくらも靴のまま海に入り、ユーイチとならぶ。