待合室の真ん中には、大きな泉のオブジェがあり、天使が優しい微笑みを浮かべ泉の中をのぞいている。


壁には大きな絵が飾ってあり、天使が三日月の上で眠るその絵には『カナン』と記されていた。


でも・・素敵な所だなぁ。


なんだかここにいると、大きな愛に包まれている気がする。


「倉橋美織さん」


名前を呼ばれハッとし、立ち上がる。


「どうぞ」



通された部屋は小さく、月明かりのようなオレンジのランプが輝いている。

占い師は、部屋の真ん中の丸い木のテーブルに座ってこちらを観察するような目でじっと見ていた。


20代半ばくらいだろうか。


長い黒髪に黒のワンピースを着た意思の強そうな美人。


胸には三日月のペンダントが光っている。


美織とは正反対の雰囲気の人。


第一印象はそれだった。


「あなた、夢に悩まされてるわね」


月野いずみという名の占い師は、美織を見るなり、そう言い放った。


「すごい・・!まだ何も話してないのに」


「その夢の人物があなたの運命の人・・・そう思っているんじゃない?」


言い当てられて、少し心臓が高鳴った。


「はい!いつも顔を見ることはできないけど、美織、その人と前に会ったことがある気がして。忘れてるだけなんじゃないかって。だって・・・美織は半年間ほどの記憶がすっぽりぬけてるから」


そう、高校1年の秋に自宅が火事にあって以来、美織は高校に入ってから火事の日までの記憶を失ってしまった。


何か、大事なことを忘れている気がするのに。


思い出せないのがつらくて、高校も転校した。