美織・・・まさか。


まさか、須藤十夜を好きだったこと思い出したのか!?


美織と付き合って4年。


彼女は「新しい運命を生きる」そう言って、一度も失った記憶のことは聞かなかった。


オレは不安に押しつぶされそうになりながら、美織を振り返る。


「!?」


デジャヴを見た。


そんな気分だった。


美織の表情は柔らかで、青の空に今にも溶けてしまいそうに澄んだ瞳。


嬉しそうに二人を見つめる無垢な笑顔。


美織の表情に、あの日の夕日が重なった。


ただ愛する者の幸せを願う天使の微笑み。


なんの汚れもない・・・・・祈り。


「亮太。生まれ変わった美織の願い、聞いてくれるかな?」


あの日の絵の中の美織がオレを振り返る。


「亮太が『死ぬな』って言ってくれたあの日から、美織の願いはただ一つ」


「大好きな亮太の幸せです」


絵の中の彼女が、微笑んだ。


そして・・・。


オレにはなんとなく


美織が言った『死ぬな』は、あの橋の上での『死ぬな』の事を言っているように思えたんだ。


今、やっと、あの夕暮れの日の、彼女が止まってしまった時間から、



・・・・時計が動き出した。




そうだ。


オレは、この瞬間を絵に描きとめよう。


生まれ変わった彼女の、最高に輝く笑顔を


オレはまた、見届けたのだから・・・。



美織


オレの・・・



『茜色の天使』