大学構内の前庭にあるベンチに腰掛ける。


美織ちゃん、天使の微笑みは変わらないけど、少しだけ、大人っぽくなったような気がする。


つらい恋をしたからか・・・。


美織は持っていたトートバッグから、画用紙を1枚取り出しオレに差し出した。


「これ、あなたが描いてくれた絵よね?」


何ヶ月ぶりかに見たオレの絵。


「これ・・・持っててくれたのか」


美織は大事そうに絵を自分の膝の上に置くと、あの愛らしい笑みで絵を見つめる。


「この絵もらった時ね、美織、火事のショックで記憶をなくしたばっかりで混乱してたの。あなたのことが誰なのかわからなかったし・・・今でもわからないの」


記憶をなくした!?


オレはあまりの衝撃の事実に驚き、目を丸くして美織を振り返った。


「でも、この絵は美織が失ってしまった大事なものを描いてくれてる気がして、ずっと大切に持ってた。裏に千葉亮太って書いてあったから、高校で調べたの。そしたら、ここに入学してるって聞いて」


美織がオレを探してきてくれたなんて、オレは夢を見ているような気持ちになった。


「なんで、オレに会いに来てくれたの?」


美織は少し潤んだ瞳でオレを振り返った。


「病室で、『死ぬな』って言ってくれたでしょ?」


美織の瞳は、今にもこぼれ落ちそうな涙で輝いていた。


愛しくて、愛しくて。


ただその人の幸せを願う気持ち。


今のオレにならできるかもしれない。


「美織ちゃん、これは君が幸せになるおまじないだ」


美織の瞳をじっと見つめて。


美織もオレを見つめ返す。





「好きだ」


何度でも言う。


君が好きだ。


願うのは、ただ、君の幸せ。


オレの祈りは、涙となってオレの頬を伝った。



美織の大きな瞳から、キラリと、涙が一滴伝って、絵の上で弾けとんだ。