「どうしたの? 迷子?」

由里が聞くと男の子はのろのろと顔を上げた。

その顔は能面みたいに無表情で、思わずぞっとする。

でも元来子供好きな由里は気にする風でなく、男の子に再度話し掛ける。

「お父さんやお母さん、いるかな?」

「……た」

男の子が何事か呟く。

「え? 何?」

「見つけた」

「え……?」

由里は首を傾げる。その時俺は、男の子が寄り掛かる木が、この神社の御神木だということに気付いた。

「あの、見つけたってどういうこと?」

「ふふふ」

男の子が初めて笑う。その瞬間、俺の背筋に冷たいものが走った。

『これ』は危険だと、理性よりも深い所から本能が叫んでくる。

「由里、下がれ!!」

俺の叫びに由里が振り返る。

「祐樹……」

差し出された由里の手を、握ろうとしたその時。

俺の視界は、真っ白に染まった。




薄れていく意識の中で、誰かの笑い声を聞いた気がした。