うつり気パシフィック



「……はい?」



眼前に広がっていたのは、襟元から見える見事な谷間。


そう、海原洋が俺の座っている椅子にもたれかかってきたのである。


しかもあろう事か、俺の肩に手を回して、若干上目遣いで俺のことを見上げてきやがる。



「なんで無視するの?」



…何?可愛いと思ってんの?その素振り?


生憎ながら、俺は好みの女以外にときめいたりしないんだよ。残念だったな。出直してきやがれ。


あと、さっきから「なんで海原さんがあんな強面の奴に…」とか言ってる奴。

別に俺だって好きで強面なわけじゃねぇんだよ。あと羨ましそうにすんな。俺はこいつに迷惑してんだよ。欲しいならくれてやろうか?



「……別に無視してないですよ」


「でも、返事くらいしてくれたっていいじゃない」


「別に返事する必要もありませんよ。俺と君は、赤の他人なんですから」