さて、私もそろそろ行こうか。

周囲に人がいないのを確認してから、鞄の底に入れておいた青いかつらを被る。
手ぐしで整え、手鏡で確認。

そこに写るのは、達富玲とは簡単に結びつかない面立ち。

問題は無い。

ちらと寝息をたてる優希に視線を落とす。

なんとまぁ、幸せそうな顔して。

「どんな夢をみているのか……」

誘(いざな)われるように彼に手を伸ばす。

「んっ………」

優希が身動ぎ、触れそうになった指を引く。

「…………玲……」

「………」

宙に浮いたままの手を引き、鞄にかける。
音を立てないよう、だが早急に教室を出た。

たとえ夢の中でも、玲と会って幸せなんだ。
邪魔をしてはいけない。
そう、自分に言い聞かせて。

彼が呼んだ『玲』を『レイ』に脳内変換しそうになるのを、がむしゃらに走ることで打ち消した。