云えないコトノハ

「……今日はここまでだな」

教師が言うと、それを合図にチャイムが鳴った。

「次の授業の初めに今日の所テストするからなー」

「えーっ!」

テストが嫌なのは金持ち学校でも変わらないようだ。
講義の声をあげる生徒を軽くあしらい、教師は教室を出た。

生徒たちは不満を漏らしながらも、移動を始める。
私はその集団のいちばん後ろで、質問攻めにあっていた。

「おい、近道ってどこにあったんだよ」

と、優希。

同じことをしつこく訊いてくる。
それくらい、後から教室を出た私が先に着いたことが気にくわなかったらしい。

「ねぇそれって、窓から入ってきたことと関係があったりするの?」

黙秘を続けていた私に、沙貴が爆弾を投げてきた。

「窓?」

「うん。チャイムが鳴る少し前に、外で何か音がしたと思ったら、窓から玲君が。ね、弘海」

「ああ。だから、外で何があったのか聞こうと思ったんだけど……」

3人の視線が突き刺さっているようで、痛い。
私は冷や汗を隠し、笑顔を作る。

「ほら、僕たちが最後のようですよ、早く行かないと遅刻してしまいます。急ぎましょう」

畳み掛けるように言い切り、足を速める。
実際、前にいたはずのクラスメートの背中は見えなくなっていたので、不自然ではないだろう。

一般教室の集まる本館ともなると、人が多くて思ったように進めない。
普段ならその程度の認識である、名前も知らない彼らだが、今日ばかりは勝手が違った。

「本当に見たんだって! 別棟から人が飛び降りるの!」

「救急車も来てねぇし、気のせいなんじゃね?」

「ほんとなんだってば!」

休み時間の騒がしい廊下で、それだけがやけにはっきり聞こえた。