「授業始めるぞー。欠席は……赤江だけだな」

彼は中央の教壇に向かいながら教室を見回し、確認する。
沙貴と弘海は、不満そうにしながらもおとなしく前を向いた。
その時、バタバタと走る足音が近づいてきた。

「セーフだよな!」

前の扉が開け放たれたと同時に叫ぶ声。

「アウトに決まってるだろ。本鈴が聞こえなかったその耳は飾りか?」

「ちょっとくらいおまけしろよ。んな細かいと将来ハゲるぜ」

「余計なお世話だ! 早く席につけ」

「へーい」

優希は教室に足を踏み入れ、気だるげに歩いてくる。
頬杖をついてそれを眺めていたら、ふと彼と目があった。

足を止め、みるみるうちに見開かれる瞳は、信じられないといった驚きの色。

「なんでお前がここにいるんだ!」

ビシィッと指さされ、大声をあげられる。
ここにいる全ての視線が優希に集まった。

「近道を使ったので、優希より早くついたのは当然です。……どうぞ」

隣の椅子をひいて、座るよう促す。
納得いかないといった顔をしながらも、優希は席に着いた。

「前回の続きからだ」

教師は、優希の奇行にかまわず教科書を読み上げだした。
私はそれを聞き流しながら、ノートの状態と今やっているところを比べる。
授業の進みは遅いようで、大きな差は無い。

……いや、違う。

最近書かれたものと、初めのほうに書かれたもの。
あるときを境に、格段に分かりやすくまとまっている。
ちら、と優希のノートを盗み見ると、玲のノートと同じ書き方がしてあった。
つまりは、玲は休んでいる間、優希のノートを写していたということか。
今まで気づかなかった。

こんなによくしてくれていたのか。

心の中で感謝して、今日の授業内容だけの板書をした。