授業終了のチャイムが鳴り、教室から人が消えつつあっても、優希は机に伏せて寝息をたてていた。
よほど疲れきっているのか、目を覚ます気配はない。

結論だけいうと、私は間に合った。

遡ることおよそ8時間。

優希とふたり寮を出て、近道と称した木々の間を抜け校内へ。
3階の一般教室には誰もいなくて、どこか別の教室であると気付く。

いち早く教科書を抱えた優希が先に行った。

「特別棟1階左端、第一化学室だ」

彼は私を待つ素振りも見せず、足音が遠くなる。

酷いなぁ。

ロッカーから教科書を素早く抜き取り、鞄に詰め、足音を追う。
ただ、選ぶ道は優希とは違う。

私が向かったのは、特別棟3階の左端。
優希の話によると、この真下に目的の教室はあるということ。
運よくそこは無人で、開けた窓から飛び降りた。

衝撃を殺して着地。
何もなかった普通の顔して、窓から教室に入る私に注目が集まる。
こそこそと、だが隠しもしない嫌な目だ。

気にかけることなく席につくと、前にいた沙貴と弘海と目があった。
挨拶がわりに微笑み、それに彼らが口を開こうとしたところで本鈴が鳴る。
同時に白衣の若い教師が前の扉から入ってきた。