軽くシャワーを浴びたあと、制服を着て共同スペースに続く戸を開くと、仁王立ちして怒りを露にした優希がいた。
私が口を開くより先に、彼の怒号が飛ぶ。

「今何時だと思ってんだ! あとちょっとでも遅かったら、お前が全裸だろうが構わずこのドアぶち破ってるところだ」

「ものを大切にしなさいよお坊ちゃん」

赤江優希の家は建設業の大手だったはず。
だったら自分で直せるのかもしれないが、日本人のものを大切にする精神を忘れないよう。

優希の奥の方にある掛け時計を確認すると、始業30分前だった。
30分は、寮から学園まで徒歩で行く時間に相当する。

その中に、移動教室にかかる時間は含まれていない。
あの無駄に広い学園だ。
移動ひとつにかかる時間も、普通の公立学校とは桁が違う。

「こんな時間まで待っていてくれたこと、感謝する。すぐに出よう」

言うと同時に彼の脇を抜ける。

「おいっ、なんでお前が仕切るんだよ!」

私はその声を聞き流しながら冷蔵庫を開ける。

「それに、感謝なんて微塵もしてないだろその態度!」

「そんなことないさ」

中にあったゼリー飲料を取り出し、ふたを開け。

「だったらもっと、俺を敬え!」

そしてそれを、一気に飲み干した。

「あー! 俺の買い置き!」

優希の叫びもむなしく、冷蔵庫の戸は乾いた音をたてて閉まった。