云えないコトノハ

「わかってる。達富が風紀やってると思われなければいいんだろ」

あながち間違ってはいない。

「俺に任せとけ」

ちょっと待ってろと言い残し、彼は扉の奥に消えた。

「ほら」

次に扉が開いた時、そこから飛んできた青い塊を片手で取る。

「何打これは」

「見ての通り、カツラだよ」

そんなことを訊いているのではない。

光紀はこちらに歩いてきて、先ほどと同じ位置に座った。

「人の印象は髪型を変えるだけで大きく変わる。これをつければ万事解決」

「そんなものか」

私は半信半疑で青いカツラを被る。
手ぐしで軽く整えてから、意見を求めて光紀に目を向けた。

「いいと思うぜ。誰も達富だとは思わない」

鏡を見せられてなるほどと思う。
自身の黒髪より少し長いカツラ。
長くなっただけで形はあまり変わらない気もするが、色が違うだけで与える印象ががらりと変わった。
素の無表情であるから、玲とは結びつきにくい。

「これなら出来そうだ」

「そりゃよかった。これからよろしくな、麗」

その時、風紀委員室の扉が開いた。

「………こいつ、誰?」

現れたのは、灰色の髪を真ん中で分けた長身の生徒。
ぼんやりしたような空気を纏う整った顔は、私の知っているものだ。

「新しい風紀委員だ。信用できる人だから大丈夫」

彼の問いかけに答えたのは光紀。
いぶかしげな目を向けてくる灰色の彼『familiar』幹部のシロに会釈する。