云えないコトノハ

学年最下位があんな問題解けるわけがないと思われているのだろう。
だから、隣の席で同室の優希が解いたことになっている。

今それを訂正したとして、周りが納得する理由も思いつかないし、優希には悪いがこのままにしておこう。
心の中で頷いていると、沙貴がくすくすと笑った。

「なんか、今日だけで玲君と赤江君の印象が変わったなぁ……。あっ、弘海今日の部活ミーティングあるって! 玲君、ついでに赤江君もじゃーね!」

「また明日」

「行ってらっしゃい」

「おー」

沙貴があわてて弘海の腕を掴み走っていくのを、私は笑顔で手を振り見送る。
優希は気だるげに返事をしただけにとどまった。

彼は相当お疲れのようだ。

それをわざわざ叩き起こすような真似はしない。

「おい」

鞄を肩にかけ、黙って去ろうとしたが、優希に呼び止められた。

「………何か」

「帰るのか?」

私と優希しかいない放課後の教室。
用もないのに此処に残る理由があるのか。

答えない私にひじれを切らしたのか、優希は鞄を持ってのっそりと立ち上がる。
そして、教室を出て振り返る。

私がその場から一歩も動いていないことを認めると、眉間にしわを寄せた。

「帰るんじゃないのか」

「私はこれから少し用事がある。先に帰ってくれ」

「俺様もついて行ってやろう」

「いいや、私一人でいい。君は先ほど出された課題で忙しいだろう」