云えないコトノハ

「ほんとのほんっとーに、無事だったんだな!」

「さっきからそうだって言ってるでしょ!」

だんだんと声量が上がってきて、沙貴と弘海の会話がはっきりと聞こえるまでになる。
今の今まで、ずっと同じ言葉の繰り返しだったようで、過保護で心配性な弘海を沙貴は鬱陶しがっているようだ。

この終わりの見えない言い合いを終わらせるべく、私はふたりの間に割って入った。

「もうお昼ですし、皆で食堂に行きませんか?」

話しかけると、弘海に怪訝そうな顔で見られた。
どうやら彼は、ここに来て初めてこちらを認識したようだ。

「お前……」

「達富玲といいます」

「玲君、この大きいのが僕の親友で玉川(たまがわ)弘海だよ。気軽に弘海って呼んでいいからね」

「おい、沙貴勝手に……」

笑顔で私に紹介された玉川弘海は、たじたじになっている。

「本人の了承が取れない限り、僕は玉川君とお呼びします。安心してください」

「いや、そうじゃない。弘海と呼んでいいから」

名前を呼ばれることに不満があったものと思っていたが、どうやら違うらしい。

「やっぱり、自己紹介は自分の口でしたいじゃないか」

それが礼儀というものだろうと言う弘海はかっこいいと思う。

沙貴は眉根を寄せて、反省の色を見せた。

「気がつかなくてごめんね。早く弘海を紹介したかったから。………もう一度登場からやり直す?」

首を傾けて背の高い弘海を見上げて、妙案だとばかりに輝いた顔をする沙貴。
それを正面から見た弘海は顔を赤くした。

「いや、いい。いいから」

沙貴の申し出を断る弘海の声は裏返り、どもっていて、恥ずかしいのだなと思う。
私でも、改めて自己紹介というのは照れる。