云えないコトノハ

『玲の言葉』なんて、私には話せない。
しかし、それを悟らせることはさせてはいけない。

努めて玲らしい、明るい表情を作ってから、頭をあげると同時に口を開く。

「有り難う」

沙貴が微笑んでくるので、頬が引きつりそうになりながらも玲の笑顔で応じた。

「沙貴っ!」

屋上の扉が勢いよく開き、先ほどまで下に居た弘海が駆け込んできた。

「弘海………」

弘海はわき目も振らず沙貴に駆け寄り、正面から抱きしめる。
彼らの意識がお互いに向いたので、私は静かに距離を置き、貼り付けていた玲の笑顔を消した。

正直、弘海とやらが来てくれて助かった。
これ以上長引いていたら、顔の筋肉が変になっていただろう。
顔のつくりは似ていても、私と玲は別人なんだと思い知らされる。
短い時間なら問題はないが、長くなるにつれ、つらくなってくる。

両手を頬に当て、丸を描くように動かした。

「変な顔」

「五月蝿い」

隣に立ち、小声で話しかけてくる優希に小声で返す。
にやにやとこちらを見てくる彼に苛立ちが募る。

「気付いていたなら助けてくれ」

「やなこった。俺は人の話に入る趣味はないからな」

今は趣味の話はしていないと内心毒づく。

「あとちょっとでも遅ければ、玲らしくもない行動を取るところだった」

「ああ。もう玲らしくない行動を起こしているから今更だな」

彼の漏らした言葉の中に、何やら聞き捨てならないものが混じっていた。

「既に玲らしくない、と?」

「当然」

さも当たり前のように言う優希の胸倉を掴んで引き寄せる。

「いつ、私がどのように、玲らしくなかったと言うのだ」

彼はなんでもないことのように答えた。