あれから二度寝することは叶わず、起きて買い置きのメロンパンをかじっていると、インターホンが鳴った。
手近にある受話器をとり、そこから聞こえてくる音に耳を傾ける。

「………はい」

「私、達富の使いの者です、天花寺麗(てんげいじうらら)様をお迎えにあがりました」

「わかった、少し待っていて」

了承の返事を聞く前に受話器を定位置に戻し、残りのメロンパンを口の中に押し込み嚥下する。

あいつ、ほんとに迎えをよこしやがった。

寝室で着なれたパーカーと半ズボンに着替え、ケータイを半ズボンのポケットに突っ込む。
空っぽの冷蔵庫に唯一残っていた、パック入りの100%オレンジジュースを取り出す。
帰りに何か食べるもの買わないとな、と考えながら玄関に行く。
履き慣れたスニーカーに足を入れて外に出ると、前の道路には黒塗りの高級車が停まっていた。
その近くに立つスーツ姿の男性はこちらに気づくと後部座席の扉を恭しく開ける。