髪は黒くて短く、きりっと整った顔を惜しまず晒している。
身長も高いので爽やかスポーツマンな印象を受けた。
彼はポケットからケータイを出し、画面を見ると慌てた様子でそれを耳に当てた。

焦った様子で何か喋っているようだが、声はここまで届かない。
唇の形を見る限り、『沙貴、今どこだ、大丈夫か!』といったところか。

「うん、僕だよ……平気、玲君に助けてもらっちゃったんだー」

嬉しそうに話す沙貴。
下に居る弘海がため息をついたのが分かった。

「今? 弘海、上見てみて」

瞬間、彼がすごい勢いでこちらを向いて、ばちりと目が合う。
隣で沙貴が手を振ったので、私もつられて手を挙げる。

「こっちにおいでよ。それとも弘海は今から授業受けに行くの?」

唇の動きで『いや、そっち行く』と言っているのがわかった。

「じゃー、待ってるね」

沙貴が通話を終えると、弘海も素早くケータイを閉じ、校内へ入る扉がある方向に走り出した。

「玲君、弘海こっちにくるって」

「そうですか」

「……敬語。僕たち友達でしょ、せっかく名前で呼び合うんだから、敬語もやめてよ」

私は一瞬、返事に躊躇った。

「………敬語なんて使っている自覚なかったけど、沙貴がそう思ったなら申し訳ない」

深く頭を下げて、なるべく反省して見えるようにした。
今、沙貴よりも低い位置に頭があるため、覗き込まれない限り彼に私の顔は見えない。

本当は、意識して敬語を使おうとしている。
そうしないと玲の仮面が剥がれ落ちてしまう気がするから。
もとより玲は、乱暴な物言いも、私のように冷淡なことも言わないので、それはとても都合がいいのだ。

「あ、あの、ごめんね。無理に敬語をやめてとは言わないよ。玲君の言葉で話して」

沙貴は慌てて弁解した。
眉尻を下げたその顔に胸が痛む。