まずい、つい反射で守ってあげるような意味のことを言ったが、今の私は達富玲だ。
玲に誰かを守れる力なんてない。
どうしようかと考えた末、飛び出した言葉は。

「赤江優希が私たちを守ってくれるよ」

「おい!」

私の発したそれに、赤江優希は耳ざとく反応したが、夢見心地な沙貴の耳には届いていなかったようだ。
一息ついてから、赤江優希は起こした身体を再度地に着け、空を正面に見たまま私に言う。

「玲、いまさらそんな他人行儀に呼ぶな。名前で呼べ」

玲はそう呼んでいたと暗に告げてくる優希に了承の意を示してから、隅に設置してあるフェンスに背を預ける。

危なかった。
今回は運よく聞かれていなかったようだが、いつもこうとは限らない。
優希に、バレるようなへまはしないと大口を叩いておきながら、それを実行できないなど、私の矜持が許さない。
もっと注意を払わなければ。

緑の中、所々飛び出している建物。
それらが目印になるため、森に入ったとしても遭難することはまずないだろう。

ここからの景色を堪能していると、授業中にもかかわらず、外を歩いている生徒を見つけた。
それは走りながらも、何かを探すようにせわしなく辺りを見回している。

「あっ、弘海(ひろみ)だ」

いつの間にか隣に居た沙貴が声を上げた。

「知り合いですか?」

「僕の同室者で、隣の席で親友だよ。ちょっと待っててね」

そう言ってポケットからケータイを出し、なにやら操作し始める彼から視線を弘海という人に移す。