云えないコトノハ

「じゃあ、まずは自己紹介から。僕は斎賀沙貴(さいがさき)です」

「……達富玲といいます」

「僕、玲君と友達になりたいな」

だめ? と彼が首を傾けたことで、茶色のふわふわした髪が揺れる。
くりくりした茶色の目を潤ませながら見上げてきて、ひるんだ。

これが噂に聞く“泣き落とし”というやつか。

他の奴にやられても何とも思わない、むしろあり得ないはずなのに。
こやつ、できる……。

「おいてめぇら!」

突然、背後から怒声があがる。

あー、すっかり忘れてた。
あいつもう起きたのか、相手にするのも面倒だし。

斎賀沙貴が震えたのが腕越しに伝わってきた。
大丈夫だからと、もう片方の手で軽く頭をなでる。

「よくも腹を蹴りやがったな! 俺は胃腸が弱いんだぞ!」

知るか。
だから転んだままなのだな、とぼんやり考える。

勝手に騒ぐ奴は無視して、空いている方の腕を斎賀沙貴の膝下に滑り込ませ、勢いをつけて持ち上げる。

「ひゃっ!」

「安心して任せて、しっかり捕まってください。逃げます」

「はいっ!」

首に腕をまわされ、安定感が生まれる。