私は足音を立てず、彼らの元に歩み寄る。

「そこまでしたいならしかたないなぁ」

言って、ひとりが右腕を振りかぶって襲い掛かってくるのを、その隙だらけの腹に一発、蹴りを入れて地に伏せさせる。
続けて、驚きに目を見張るもうひとりのチンピラの横腹に回し蹴りを入れて、壁まで飛ばす。

私はそれによって解放された彼を見下ろした。
服は乱れているものの、目立った外傷は見受けられないのでほっとする。

「……たつ、とみくん」

床に倒れたまま涙にぬれた顔で私をまっすぐ見上げてくる彼と、視線を合わせるようにしゃがむ。

「何ですか」

なるべく優しい声を意識して返事をすると、彼は微笑みながらも震えた声で小さくありがとうと言った。

「どういたしまして」

私は彼に手を差し出す。
立てますかと聞いたら、首を横に振られた。

先程の恐怖に腰が抜けてしまったのだろうか。
床に寝かせたままでおくのも忍びないので、彼の上体を起こして肩を支える。

その時ふわりと揺れた、彼のくせっ毛には覚えがあった。

「君、前の席の……」

「うん。達富君の前の席、話すのは初めてだね」

私はとりあえず頷いておく。