人気のない廊下を歩いていると、どこからか助けを求める声を聞いた。
赤江優希を見上げても、彼の表情に変わりはない。
空耳かと思い、足を止めることはしなかった。

だが、目的地に近づけば近づくほど、はっきりと声が聞き取れるようになってくる。

「到着か」

「ここはまだ中間地点だ」

どんだけ広いんだ。

「この辺は何の授業で使うんだ?」

「えーと、視聴覚室や図書室、会議室とかがあって、授業で使うことはないな」

「では、ここで声が聞こえるのはサボりの生徒か」

サボり、なんて素敵な響き。

「あー、たぶん」

赤江優希が歯切れ悪く、それか学園の特色だなと言った。

「まれに授業サボってこういうことする奴がいるんだよ」

その時、助けてと切羽詰った声が耳に届いた。

「………」

「………」

私と赤江優希は足を止めて、顔を見合わせた。
続いて、こんな時間にここを通る奴なんかいねえよ、というあざ笑う声。

「いじめがこの学園の特色、ねぇ」

これなら普通にサボっているほうが断然有意義だ。