云えないコトノハ

混ぜ終わった納豆をご飯に乗せ、食べようとする赤江優希のそれを奪う。

「なにすんだ、返せ!」

「五月蝿い」

スプーンで納豆ご飯をすくい、口に含む。
普通に美味い。
もちろん、さきほどの口直しだ。
断じて意趣返しなどではない。

「第一、お前はこれのどこが気に入らないんだ? 一流シェフが高級食材で作った、ふわとろデミグラスのオムライスだぜ?」

「………」

私はひたすら納豆ご飯をかきこみ、口の中のものを全て飲み込んでから話す。

「私は、ふわふわとろとろの卵と、デミグラスソースのオムライスは苦手でね」

空になった茶碗を目の前の盆に返すついでに、スプーンいっぱいに乗せたオムライスを彼の口に押し付けた。
抵抗することなくそれを口内に迎え入れる。

入り口のほうがざわざわし始めた。

口内のものを嚥下した赤江優希が不満そうな表情を向けてくる。
頬杖をついて聞く体制をとると、話し出した。

「普通はこれ、おいしいって言いながら食べるものだぜ」

口に物をいれたまましゃべるな、行儀悪い。

言ってしまうと話の腰を折ることになるので、黙って味噌汁を手に取る。

「お前好みのオムライスって、何さ」

音を立てず味噌汁をすすってから、答えた。

「程よく水分のとんだ卵と、トマトケチャップのオムライス」

ふたたびスプーンいっぱいのオムライスを彼の口に持っていく。
やはりおとなしくそれを食べてくれた。

「ふたりは今日もおあついねぇ」