云えないコトノハ

どうやら、私がぼんやり歩いているあいだに席を見つけたらしい。
少し奥に入った二人がけのテーブルの横に立っている。
そこに行く途中に彼は座ったので、私も向かいの椅子を引いた。
木製の上品なつくりの椅子は長時間座っても疲れにくい仕組みらしく、座り心地がとてもいい。

「説明はしない、よく見とけ」

赤江優希はテーブルの中央にあった機械を手元に引き寄せ、カードを挿入する。
何度か指で画面に触れてからカードを抜き出し、機械を私の前に置く。
彼の顔を窺うようにして見ると、やってみろといわんばかりの悪人顔をしていた。

腹がたつ。
本当、こいつは優しくない。

とりあえず、見よう見まねで玲から預かったカードを差し込むと、真っ暗だった画面に色がついた。
それは、カラオケ店の注文の仕方によく似ていたので、慣れた手つきで画面に触れる。
たまたま目に付いたオムライスと、好物のメロンソーダを注文してカードを取り出す。
機械を中央に戻してから、椅子に上体を預けた。

「ちっ、操作できたのかよ」

「食べ損ねればいい、なんて思っていたのだな」

「当然」

間髪を容れず答えるこいつは、どう足掻いても優しくない。

そんなに私に恨みがあるのか、それともただの八つ当たりか。
どちらにしろ、私は小言をもらうのだな。

小さく息をつくと、目の前に注文したものが音もなく置かれた。
赤江優希の方も同様にされ、給仕は空気にまぎれて去っていった。

「プロだ……」