云えないコトノハ

「こんな大勢いる中で、ひとりの学生が少し休んだだけでこんなにも目を集めるのだから、よく覚えているなー、と」

答えれば、彼はかわいそうなものを見る目を向けてきた。

「何か?」

不快に眉をひそめると、とがめるように人差し指を眉間に押し付けられる。

「お前らは、その顔をもう少し自覚したほうがいい。あと、玲はそんな表情をしない」

私は眉間に触れたままの指を外させるため、彼の腕を払った。

「それくらい知っている」

「あっそ。だったら気をつけろ、人前だ」

「ばれたらお前のせいだ」

「人のせいにすんじゃねー!」

小声でのやり取りは、周りの音にかき消されて互いにしか届かない。
食堂に近づくにつれ人が多くなり、比例してざわめきも大きくなっていく。
気に留めてもいなかったが、食堂に足を踏み入れた途端、爆発的な歓声が沸き起こった。

………五月蝿い。

隣を見上げると、赤江優希も顔をしかめていた。
それでも足を止めることはせず、あいている席を探す。
嫌でも耳に入ってくる歓声には「きゃー」や「ぅおー」など意味を成さないものの他に、かっこいい、かわいいなども含まれている。
赤江様という単語が聞き取れて理解した。

「なるほど。赤江優希が目立つから玲が覚えられているのだな」

この歓声はすべて、赤髪の彼に向けられたものなのだ。
にしても、かわいいとは不似合いな。
それは玲に向ける言葉だと私は思う。

「玲!」

絶えない歓声の隙間から、赤江優希の声が聞こえた。