云えないコトノハ

この視線に気づいた彼は、私を見下ろして睨む。
玲だけいればいい、とその目が語っていた。

「こわいこわい」

私はそれに気づかないふりをして適当にあしらう。
ちょうど目の前で開いたエレベーターに乗り込むと、赤江優希もついてくる。

他にも入ってくるだろうと予想していたが、一人として乗り込もうとはしなかった。
疑問に思って、エレベーターの開ボタンを押したまま、そこにいる人たちに尋ねる。

「乗らないのですか？」

そこにいる人たちは、皆一斉に首を横に振った。
何を言っても乗り込んできそうにない。
これが、赤江優希マジックか。

「そうですか、ではお先に失礼します」

開ボタンから手を離し、閉ボタンを押す。
扉が閉まり、二人だけになった途端、赤江優希が半目で見てきた。

「何？」

「お前、俺への態度とまったく違うじゃねーか！」

私はあきれた。
こいつ、何をいまさら言っているのかと。

「当然。私はあくまで達富玲。いくら周りが玲の性格を知らないからといって、私が好き勝手振舞うことはできない。いづれ帰ってくる玲のためにも、誤差はなるべく少ないほうがいいからな」

「だったら俺にも同じように振舞え」

「却下。お前は私を知っているからその必要はない。………それに、嫌だ」

赤江優希に、玲と重ねて見られるのが嫌だ。