また騒がしくする彼の隣を通り過ぎ、玲の部屋を出る。
ソファーにかばんを放り投げてから洗面台で顔を洗い、髪を手櫛で整えてから正面の鏡に目をとめた。
そこに映るのは、無表情な玲。

玲本来の明るい性格を知らない人には十分通用するだろう。
だが、それをしてはいけない。
いづれ玲は帰ってくるのだから。
鏡に向かって微笑みを浮かべると、私のよく知る玲の顔になった。

共同スペースに移動して真っ先に目に付いたのは、ソファーでふんぞり返る赤髪。

「それで偉くなったつもりか。食堂へ行くぞ」

ソファーの上のかばんを肩に掛け、目の前にいる彼を呼ぶ。

「るせー。お前にやられた腹が痛くて動けねーんだよ」

だったらどうやってそこまで移動したんだ。

私は大股で彼の元へ行き、投げ出されている手首をつかむ。
自分でもなんとなく、悪人面してるんだろうなという自覚はあった。

「そうか。お詫びとってはなんだが、私が引っ張ってやろう」

「は?」

力任せに手を引けば、必然的に彼はソファーから落ちる。
そんなものは構わず引きずって玄関に向かっていると、足首をつかまれたと同時にかかる声。

「自分で歩くから、その手を離せ……」

そこにはホラー映画を彷彿とさせる体勢をした、同室者の姿があった。

「なさけない」

「るせー………」

ぽつりとこぼすと、それを耳ざとく拾った彼が力なく反論した。