遠くで物音と、ただいまという声が聞こえた。

「ぅ…ん……」

伏せていた顔をあげると真っ先に飛び込んできたのは、濫用された蛍光ペンが目に優しくない教科書と、意味をなさない線の書かれているノートだった。
寝ていたのだと判断するのは容易いこと。

無理な体勢をしていたようで、首が痛みを訴える。
首と肩をゆっくり回していると、私を起こした声が再び聞こえてきた。

「玲、開けるぞ」

声の主だろうとその人は、私が返事をする前にこの個室の扉を開けた。
内心、少し動揺したが、何事もなかったかのように振り返り、そこに立つ人を見る。

私は、赤色の髪が印象的な彼の名前を口にした。

「おかえり、優希」

赤江優希(あかえゆうき)、見た目は不良だが、優しい人だと玲は言っていた。
彼は私の目をまっすぐ睨み付けながら、一歩一歩距離を詰めてくる。
目をそらすことはしない。