次に目覚めると、外が明るくなっていた。
太陽はまだ昇っていない。
「起きたの?」
隣から声がして見ると、風神威士は目覚めていた。
「すみません、起こしましたか?」
「いいや、俺もさっき目が覚めたところ」
他人が近くで寝ていたのだ。
本人に自覚はなくても、眠りが浅かったことだろう。
「お世話になりました。もう、帰ります」
「そうだね。誰かに見られたら大変だ」
私が起き上がるのに合わせて、彼も布団を出た。
「会長は寝てていいですよ。一人で帰れますから」
「最後まで面倒見させてくれ。この階のエレベーターは専用カードがないと動かないから、ね」
「……ありがとうございます」
少し考えて、その申し出を受ける事にした。
本当は玲のカードでも動くのだが、知られないほうがいいだろう。
「布団はそのままにして。干してから片付けるから」
「はい」
「そのスウェットも、今度会った時でいい」
私が手をかける前に制される。
出口に向かう彼を、鞄を持って追いかけた。
先に出た風神威士が廊下に人がいないことを確認する。
後ろ手に手招きされ、一晩お世話になった部屋を出た。
待機していたエレベーターに乗り込み、来る時と同様にカードをかざせばこれは動く。
昨日と違うのは、玲の部屋の階のボタンを押したこと。
言葉を交わす間もなく、目的階に着いた。
私は降りて、彼に頭を下げた。
「それでは、ありがとうございました」
「待って!」
踵を返そうとしていたところを、手を掴まれ止められる。
「これ、受け取って」
「これ………」
胸元に押し付けられ、反射的に受け取った。
金色をした特別仕様のカード。
「俺の部屋のスペアキー。持ってて欲しい」
「そんな大事なもの…」
「いつでも君の避難場所になるよ。宿代は手料理で」
「ちょっ……!」
返す隙を与えず、風神威士を乗せたエレベーターの扉が閉まった。
きっと今の扉の先には、空洞があることだろう。
どうしたらいいんだ、これ。
風神威士のカードキーを見つめるも、応えはない。
仕方ない、今度会った時に返そう。
それをスウェットの胸ポケットにしまい、今度こそ玲の部屋を目指す。


