「すまない。もう、平気だから」

「本当に?」

「……………」

「よかったら話してくれないかな。もちろん、無理強いはしない」

うつむいたままの私に、彼の表情は見えない。
でも、本心から心配してくれているのだろうことは判る。

「…………失恋、したんだ……」

気づいたときには、ぽつりと口に出していた。

それにより、曖昧だったものが形になる。
現実なのだと思い知る。

あの人は、初めて会ったときから私に気付いていた。
今まではそんな事なかったから、驚いて。
必死に平静を装おうとして、彼からの電話に救われた。
それからは何度も助けられて、一緒に居ると楽しくて。
我ながら単純だと思うけど。
ああ、好きなんだなって思った。

だが。

「あの人には、既に心を決めた彼がいて、彼は私にとっても大切な人。告白なんて、できないよ」

今まで溜めてきた想いを、順を追って吐き出す。
全て、昨日のように思い出すことができるものばかりだ。
記憶をたどることにより、あの人(赤江優希)が、彼(達富玲)をいかに想っているかも思い出した。
逆もまた然り。

口に出すことで整理された思考。

まったく、恋は盲目とはよく言ったものだ。

「有り難うございます、会長」

危うく私は、大切なものを失うところだった。
想いあう者を引き裂いて、最後に何が残るというのか。

私は、好きな人とその好きな人の幸せを願います。