云えないコトノハ

全身で感じる彼の体温に、私の心は凪いでいく。

「……いつでも来いと言ったが、こんなに早く………こんな状態で来るとは思わなかったよ」

ぽんぽんと背を撫でる彼の手は、優しくて暖かい。

……なんだか、とても落ち着く。

私はそっと彼の背中に手をまわし、胸に顔をうずめた。

色々と、限界だった。

今までは何でも独りでやってきた。
頼りにされることが多くて、全て熟すのが当たり前で。

『familiar』の中でも私はどこか、彼らとの間に壁を感じていた。
なまじ海外で飛び級をしてきたものだから、同年代の友人もいない。
時折親の仕事の手伝いで、プロジェクトの一端を担うこともあって、社会の荒波に揉まれることもあった。

それが今回。
ここに来て、学生なんてものをして、すぐ側に居てくれる人がいて、助けられて、護られて。

私は、独りであることを忘れて彼に心を許していた。

自分という個を見てもらえた気がして。
叶わないことと知っていながらも、つい期待してしまった。

彼、赤江優希は初めて会った時から言っていた。

「俺は、達富玲が好きなんだ」と。

玲の為だけに私に協力してくれるのだ、と。

まったく、不毛な片想いだ。

いくら閉鎖された環境といえど、男が男を好きだと言うにはかなりの覚悟がいることだ。
もちろん、その場限りの遊び人も中には居るだろう。
だが、彼がそうでないことは出会って数日の私にもよく分かった。

赤江優希は、女だと知っていながら私に一切なびかなかったから。

ああ、こんなにも想われている玲が羨ましい。

お互いを想い合える関係。
私には経験の無いものだ。

自嘲すると、私の背を撫でていた手が止まった。
風神威士の胸に手をつき、身体を離す。
もういいのかと目で問う彼に、微笑みで応えた。