云えないコトノハ

「とりあえず、彼を動かしましょう。委員長……」

「俺が……」

光紀に声をかけるが、お願いしますと言う前に李白が青木をおざなりに引きずり、奥の部屋に消える。

「あそこには仮眠室があるんだ」

光紀が説明してくれて、なるほどと頷く。
李白はすぐに出てきた。

「助かった、有り難う」

私の力では、彼は運べない。
お礼を告げると、私を見る李白の目がきらきらする。
近づいた李白は私の前で跪いたので、腰の辺りに来た頭をなでてやる。
すると、李白の頭に犬の耳がぴんと立ち、尻尾がぶんぶん振られている幻を見た。
従順な可愛いワンコである。

「李白を可愛がるのもそのへんにして、そこにかけてくれ」

光紀に促され、彼とテーブルをはさんだ向かいに座る。
後ろをひょこひょことついてきた大型ワンコ李白は、私の隣を陣取った。

「じゃあ、風紀の仕事内容を説明するか」

光紀はテーブルの上にこの学校の見取り図を広げた。

「基本的に、風紀は見回りと取り締まりをしている。といっても、髪型や制服に関しての規則はあってないようなものだから、その辺は気にしなくていい」

「俺たちや、生徒会だって、こんなだし……」

李白の言葉でなるほどと思い出す。
目の前にいる光紀はキラキラ輝く銀、隣の李白は灰色。
生徒会ではひとりを除き、皆明るい色だった。

「天花寺には、放課後の見回りと書類整理を頼みたいと思ってるんだ」

「脳筋どもは、書類整理に向かない……」

「そう言ってやるな。けど、事実だから、悪いけど主に俺たちの補佐をしてもらいたい」

総長に下っ端のような仕事をさせるのは忍びないと、光紀の顔に書いてある。
私は気にするなと首を振る。

「ここでの上司は光紀だ。私は委員長の決定に従うさ」

もしここで、一生徒でしかない私が優遇されようものなら、それこそ規則違反だ。
光紀の選択は正しい。

「じゃあまず見回りだが………」

テーブルの上に広がる見取り図を指しながら、光紀は説明していく。

「……で、視聴覚室のような防音の教室や、奥の方にある人が近寄らない教室は特に念入りに。まあ、コースは二人組みで回ることになるから、相方についていけばわかってもらえるだろう」

その後、細々とした説明が続いた。

「とりあえず、出会い頭に跳び蹴りはナシな」

あれは非常時だ。

「書類に関しては、今は無いからその時に説明する」

見取り図を片付けた光紀は、思い出したように言う。

「紹介が遅れたな。あそこでひたすらキーボードを叩いているのが松本だ。風紀のネットワークやシステム面を担当してもらっている」

「……どうも」

「天花寺だ、よろしく頼む」

麗なんて女っぽい名前は避け、苗字だけ。